アメリカでおきた「ある揉め事」


年末大掃除に向けて、「捨てる」を考えてる。そんで、「捨てる」をめぐって、ロスアンゼルス近くの大学図書館がもめてんので、それについて見てみる。もめてる大学図書館ってのは、California State Polytechnic University, Pomonaカリフォルニア工科大学 ポモナ校)の図書館ね。略して、「カルポリ」ね。

カルポリ図書館のおしらせ看板
http://www.csupomona.edu/~library/TheNextChapter/ConstructionSign2.jpgより拝借

もし、詳しい事情が知りたい人は、こっちを見てね。図書館関係者で読んでない人がいたら、ぜひ読んでみてね。

雑誌名:The Chronicle of Higher Education
記事タイトル:Library Renovation Leads to Soul Searching at Cal Poly
書いた人:Scott Carlsonさん
記事の日付:9月1日

Web:http://chronicle.com/weekly/v53/i02/02a05901.htm(有料)

カルポリ図書館の公式発表は、こちらのページをみてね。




さて、この騒動は「言った・言わない」問題も絡んでて、なかなか事情複雑なんだけど、簡単に言えば、こんな感じ。

A $60-million project at the California State Polytechnic University at Pomona is providing a difficult lesson in the challenges of library renovation, and in the changing role of one of the campus's central institutions. The project, now under way, will add an attractive glass entrance and space for computer rooms, study areas, classrooms, and socializing to a dull 1960s box.

But the renovation and addition — which is smaller than originally planned — may leave less space for books, journals, and other printed materials. That has some campus librarians and professors wondering if the library has forgotten its core mission.

ってなわけで、「6,000万ドル*1をかけて図書館の改修工事をすんだけど、コンピュータルームとか、勉強部屋みたいの作ったら、本置くスペースがなくなっちゃった。そしたらさ、図書館員とか、教授たちが、図書館としての重要な使命を忘れとる!けしからん!ってカンカン」ってことらしい。そりゃ、怒るわな。


しかし、

The library's dean, Harold B. Schleifer, is quick to point out that a planned second phase of renovation will greatly expand the facility's total shelf space. But there's a hitch: The university has no money for the second phase, and may not for many years to come.

ってなわけで、「図書館長さんが言うには、大丈夫、大丈夫、2期工事ってのも考えてて、そっちの2期工事でちゃんと本棚を拡張するからってことらしいが、著者さんに言わせれば、大学は2期工事をするお金がない、つまり、そんな計画いつ実行されるのか、わかりゃしないよ」っていうことらしい。(なかなかのタヌキだな、この図書館長さん。)


そんなわけで、スペースがたりなくなっちゃったから、

After getting an estimate of $240,000 to move and store up to 200,000 books, of the library's collection of about 700,000, Mr. Schleifer proposed to trim that figure by $80,000 by asking his staff to find 70,000 or more books the library could throw out. If a book hadn't been checked out in a decade, and if
copies were available at nearby libraries, or if it was damaged, it could be pitched.

ってな感じで、「70万冊の蔵書のうち、あんまし使われてない20万冊を倉庫へ移動して保管しようと思い立ち、見積もりをとってみた。そしたら、な、なんと24万ドルもすんだって。メンタマ飛び出た図書館長さんは、10年以上も貸出がされてない本なんて捨てちまえおう!近くの図書館にある本なんて捨てちまおう!ってな感じで、最低7万冊を捨てよう計画を宣言した。それで80,000ドルの節約になる」らしい。


ところが、7万冊捨てたって、まだまだスペースが足りんらしい*2。そんなこんなで次に白羽の矢が立ったのは、定期刊行物(Journal)ね。図書館関係者とかにはよく知られてんだろうけど、JSTORっていうのがあって、簡単に言えば、学術雑誌のオンライン図書館ね。そのJSTORに登録された雑誌は、ぜーんぶ捨てちゃおうぜ!って言い出した。まぁ、そもそもJSTORの設立趣旨は、こういうスペース問題の解決だったので*3、この決定自体、何ら問題はなさそう。なんだけど、やっぱり図書館員から文句が出て、

The librarians cited a recent decision by Duke University Press to stop adding new volumes to JSTOR as a sign that the journal-archiving project might not be stable in the future. "It is possible we could be left with nothing."

ってな感じで、「Duke大学出版局が、これからJSTORに登録すんのをやーめた!って言ってるぞ。どうすんだ?気がつきゃ、うちの図書館には雑誌はないし、JSTORでも見れない、なんてことになるぞ」ってことらしい。まぁ、良くある反論。でも、重要な反論。


すったもんだの末、結局捨てた雑誌は4.3万冊、とのこと。そんで、お蔵入りとなったのは、28.5万冊なんだって。あれっ?最初20万冊にしようと思ったけど、高いから7万冊は捨てちゃおうって言ってたから13万冊がお蔵入りと思ってたのに、結局、どさくさにまぎれて28.5万冊もお蔵入りになっちゃった。と、このあたりから考えて、この図書館長はかなり大物のタヌキだな。(注意:お蔵入りってのは、(究極の捨てマニア)辰巳渚さんがダメ出ししてる「とりあえず、とっておく」(ISBN:4796617914)タイプね。しかもお蔵入りした本は、ちょっとやそっとで見れないからね。だからダメとは言わんけど、何のために保管してんのか、ってのはかなり疑問だよね。あと結局7万冊を捨てたのかどうか、ちょいと不明。今度、電話して聞いとくね。)


そんでCarlsonさんは、記事の最後で、

she trusts that Mr. Schleifer and others weighed the costs and benefits of throwing out the journals and storing the other materials.
"I still think that our students are more inclined to look stuff up online," she says. "As times change, we may need to change with the times."

ってな感じで、「みんな、本や雑誌を捨てるコストとベネフィットをバランスさせよーとしてんのよ。でも個人的な考えとしては、学生たちは本よりネットを利用するようになってると思うの。時代が変われば、図書館のあり方も変わんないといけないじゃないかしらん」というJane Ollenburgerさんの言葉で締めくくってる。(カルポリ図書館は、本が置いてある図書館よりも、みんなが集う図書館(Place to Gather)を選んだらしい。)


というわけで、今日のところは、何を言いたいのかって言うと、「賛否両論はあるにせよ、カルポリ図書館は蔵書70万冊から30万冊への「40万冊ダイエット」をしたよ。でもそのうち、30万冊くらいは単なる「先送り(お蔵入り)」だから、近い将来またリバウンドするかもね。一方、残念ながらカルポリ図書館では「捨てる」本+雑誌10万冊を電子化しよう!ってことにはならんかった。そんで、何の記録も残さず捨てたことは、三上さんのように、数年後に後悔するかもしんないな」ってこと。

*1:カルポリの公式発表では3,320万ドルってなってる

*2:一体どんな図書館の設計したんだか、見てみたいな。

*3:前にも紹介したhttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/gijiroku/002-1/05121602.htmを読んでみよう